外傷専門医の赴任と外傷診療における当院での取り組み

トラウマバイパスの重要性と防ぎ得た外傷死の軽減

外傷専門医角山泰一朗医師

角山 泰一朗医師

2022年7月より外傷専門医、Acute care surgery認定外科医である角山泰一朗医師が当救命救急センターへ赴任しました。

外傷診療は、救命救急センターがそれを担うべきであることは自明の事実ではありますが、海外での「外傷センター」と呼べるような施設は、日本においては希少もしくは皆無とも言われています。

角山医師は、米国や南アフリカなどの海外において先端的な外傷診療を専門的に学び、これを帰国後、都市部の救命救急センターにおいて、最先端の技術と治療戦略を確立、実践してきました。また、さまざまな外傷診療にまつわるガイドラインなどの策定にも携り、日本の外傷診療の先端を牽引してきた医師の一人です。

外傷患者は外傷専門医が診るべきである、と言うのは、心疾患を循環器科、消化器疾患を消化器科、目の疾患を眼科が診療するのと同等であることは容易に理解できます。しかし、日本においては外傷専門医の数が非常に少なく、外傷治療を専門的に行える施設自体も少ないため、外傷診療は各専門診療科が複数集まって行なっていることが多いのです。
 

  • 外傷専門医 2022年4月現在 全国で268名
  • Acute care surgery認定外科医 全国で189名

    (例:循環器専門医 2021年8月現在 全国に15,205名)
 

そのため、重症外傷を集約化する素地が整っておらず、多くの重症外傷症例も直近病院への搬送に至り、専門的診療を受けられずにいます。

外傷診療において回避すべきなのが、「Preventable Trauma Death (PTD) ;防ぎ得た外傷死」です。日本は世界各国と比較してもPTDが多い国と言われています(海外:2.5〜13%、に対して、日本は30〜40%)。

防ぎ得た外傷死を減らすためには、「標準的な」外傷診療(緊急輸血・救急室による蘇生的手術や蘇生的IVR・外傷集中治療・二期的手術など専門的な診療)を実践できる施設作りを行い、その施設への患者搬送集約化を達成できなければ、PTDは減らせません。

現に静岡県中部においてもこれまでは外傷専門医・Acute care surgery認定外科医は不在でした。そのため、各地域病院がそれぞれ切磋琢磨して外傷診療を担ってきたわけですが、防ぎ得た外傷死が一定の数存在していたことは容易に推測できます。これは当地域のみならず日本全国どこでも同様の状態です。

今回、当救命救急センターに外傷専門医が赴任したこと、さらに救急医が10名になることで、より濃厚な外傷診療が実践できる施設となり、静岡県における外傷診療の底上げを担えるようになりました。

ダメージコントロール手術・ダメージコントロールIVR

重症体幹部外傷におけるショック状態の患者に対しては、外傷外科医による開腹手術の適応判断と早期の実施が求められます。

日本外傷学会が2021年に出した「地域における包括的外傷診療体制の提言」に記載されている「外傷蘇生センター」の要件には、

  • 緊急コールが5分以内に救急医が初療開始する
  • 緊急コールから30分以内に外傷外科医・IVR医による止血処置を行える体制があること
  • MTP(大量輸血プロトコル)が院内に整備され発動基準が明確なこと

が含まれています。

当院救命救急センターは、この要件を満たす体制が整備できています。
 

ダメージコントロール手術の様子

来院から30分で初療室にてダメージコントロール手術開始したときの様子。

それまでにMTPを発動させ、LEVEL1.による緊急輸血投与、REBOAによる大動脈遮断準備、緊急麻酔導入が実施されました。

初療室による緊急穿頭ドレナージ

初療室による緊急穿頭ドレナージ

手術室まで間に合わないと判断された症例においては脳神経外科医と協力して初療室において穿頭ドレナージ術を行うことがあります。

この記事に関するお問い合わせ先
救命救急センター

住所:静岡県藤枝市駿河台4丁目1番11号
電話番号:054-646-1111(代表) ファクス:054-646-1122
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更新日:2022年07月14日