股関節Q&A~股関節についての疑問にお答えします~

Q 股関節の特徴は?なぜ大切なのか?

股関節は骨盤のくぼみ、これを寛骨臼といいますが、これに大腿骨の丸い頭の部分、大腿骨頭がうまく適合して、曲げる、開く、捻る等、とても広く可動することのできる関節です。人間の体の中で最も深い位置に存在する関節で、体幹と下肢をつなぐ要の関節です。股関節が悪くなると、背骨や膝といった隣の関節にも影響してきます。また股関節は、歩いたり、しゃがんだり、爪切り、靴下やズボンを履く動作など、日常生活の基本的な動作に大きく関与しています。逆にいうと、股関節に障害がでてきて痛みや動きに制限がでてくると、日常生活動作に大きな支障をきたして、人生を豊かに過ごすことができなくなります。また股関節は赤ちゃんからお年寄りまで一生の中でそれぞれ違った原因で股関節に障害がでることが特徴です。

Q 子供の時期にはどういったことが原因で股関節に障害がでるのか?

まず、赤ちゃんのときですが、この時期は正常な股関節が形成されるのに重要な時期です。頻度は低いですが(1000出生に対して1~2人程度)、股関節の骨盤のくぼみが浅く、生後に不適切な育児がされると、股関節が脱臼したり、うまく骨盤のくぼみが形成されずに、大人になってから股関節の軟骨がすり減ってしまうといったことが起こります。検診が重要で、脱臼している股関節を見落とさないことです。女の子、大腿部の皮膚のしわに左右差がある、家族に股関節が悪い人がいるなどがリスクとなります。

次に3歳から9歳ころまでに発症するペルテス病というのがあります。これは股関節の大腿骨の丸い部分にあたる骨頭の一部に血液の流れが悪くなることがあり、骨頭が変形してしまう疾患です。びっこをひいたり、ふとももや膝をいたがることが多く、発見が遅れると将来にわたり後遺症を残すこともあります。

次に成長期に注意すべき股関節の疾患があります。子供さんには成長軟骨板といって、骨の端っこに近い部分に骨が成長する軟骨部分があります。この部分は背がぐんと伸びる成長期にはホルモンの影響であったり、肥満体形のお子さんで力学的に弱くなる時期があります。大腿骨頭の成長軟骨をはさんだ両端の部分の骨にずれが生じると大腿骨頭すべり症という状態となり、手術が必要になります。発見が遅れたり、ずれがひどかったりすると将来的に後遺症をのこしたり、軟骨がすり減ってしまうということが起こります。

Q 成人になってから股関節に障害がでる原因は?

比較的多いのが、変形性股関節症です。股関節の軟骨がすり減って大腿骨の骨頭や、骨盤のくぼみに変形を生じることによって痛みがでて股関節の動きが悪くなる疾患です。この疾患の原因はいろいろありますが、日本人に最も多い原因は赤ちゃんの時に股関節脱臼があったり、症状はなくても生まれつき骨盤側の股関節のくぼみが浅くて大腿骨の骨頭をうまく支えられずに不安定になり、徐々に軟骨がすり減ってくることです。特に女性の場合は遺伝的な要因も関連していて、母親や祖母が変形性股関節症であると、本人やその娘さんも股関節のくぼみが浅くて発症しやすくなります。また、高齢者で骨がもろくなっていると大腿骨頭の体重を支える部分がつぶれて発症することもあります。

次に頻度は高くありませんが、特発性大腿骨頭壊死症という厚生労働症の難病指定の疾患があります。これは大腿骨頭の一部の血液の流れが悪くなって骨が壊死してしまうために体重を支える部分がつぶれてくることで発症します。アルコールをよく飲まれる方や、内科などでステロイドという治療薬を使用している方は要注意です。

もう一つ、最近わかってきた疾患があります。それは、大腿骨寛骨臼インピンジメントといって、股関節を深く曲げて捻った際に大腿骨と骨盤のくぼみの一部が衝突をして股関節の縁にある関節唇を痛めてしまうものです。これはスポーツ選手に多く、股関節を深く曲げるサッカーや野球、欧米ではアイスホッケーのキーパーに多いと言われています。静岡県では一輪車がさかんで、小学生のころから継続しているお子さんに発症して治療した経験が何例かあります。成長期にこの疾患を発症して適切な処置をとらないと将来にわたって痛みのある股関節になってしまうため注意が必要です。

Q 超高齢社会で高齢者が増加していますが、高齢者に特有の股関節の疾患は?

骨粗鬆症に伴う、大腿骨近位部骨折です。現在日本での年間発生数は10万件を超えています。寝たきりや死亡のリスクも高くなり、5年生存率は約50%との報告もあり、この骨折をすると2人に1人が5年以内に亡くなることを意味しています。骨粗鬆症が背景にありますので、この骨折を防ぐためには、骨粗鬆症の評価をしっかり行い、必要であれば薬物治療介入することが大切です。この骨折を契機に日常生活の豊かさがガラッと変わってしまうので、人生最後を豊かに過ごすためには是非とも予防したいところです。

Q 股関節疾患の治療法にはどのようなものがあるでしょうか?

大きく分けて、保存治療と手術治療があります。保存治療には薬物治療と運動療法があります。手術治療には股関節に内視鏡を入れてテレビモニターをみながら手術をする股関節鏡視下手術、骨盤や大腿骨の骨を切って角度を変える骨切り術、股関節を人工の関節に置き換える人工股関節置換術があります。

Q 薬物治療にはどのようなものがあるでしょうか?

炎症が強く疑われる場合には、いわゆる消炎鎮痛剤のようなものを使用します。また痛みが慢性的に長期に続く場合には、神経そのものが痛みに対して過敏になってきますので、神経の痛みの伝わり方を弱める新しい薬も使用できます。また、股関節内に直接炎症を抑える注射をすることもあります。この注射で一時的にでも痛みが軽くなれば、股関節の中に痛みの原因があることが証明でき、治療効果もあります。特に大腿骨寛骨臼インピンジメントで股関節唇損傷をきたしている場合には運動療法と合わせて行うことで、7割くらいの患者さんが痛みから解放されます。

Q 運動療法にはどのようなものがあるでしょうか?

運動療法は痛みによって股関節周囲の筋肉や大腿周囲の筋肉が弱ってきますので、股関節を安定して動かせるようにするために筋力強化を行います。しかし、痛みを伴う運動はかえって筋肉を萎縮させてしまうので、あくまで痛みの少ない範囲で行うことがポイントです。特に、股関節を安定させる筋肉は、中殿筋といって股関節を外側に広げる筋肉です。もう一つは大腿四頭筋といって膝を伸展させる筋肉です。この2つの筋肉は股関節の安定と歩行に重要ですので、弱っていれば強化することが望ましいです。

次に骨盤の柔軟性を高めるストレッチです。股関節が動く際には骨盤や腰の背骨、腰椎も連動して動くことが多いです。それによって股関節そのものの負荷を減らしてしなやかに股関節が動くようになります。腰椎と骨盤の動きが硬くなっていたり、背骨の前後の固さがあると、足を前や後ろに振り上げたり、立ったり座ったりする動作の時に股関節だけで動作をすることになるために股関節の負荷が増えます。特に大腿骨寛骨臼インピンジメントでは、同じ動作でも大腿骨と寛骨臼が衝突しやすくなります。背骨と骨盤がしなやかに動くことで、股関節の少ない可動域で同じ動作ができるようになり、股関節の負担が減ります。

最後に、変形性股関節症で軟骨がすり減った状態で有効な運動があります。それはいわゆる貧乏ゆすりです。軟骨はいったんすり減ると再生しないといわれています。しかし、股関節を小刻みに持続的に動かすことで、軟骨の再生が促されるという報告があります。御高齢の方は貧乏ゆすりなど行儀が悪いと若者に叱ってきた世代なので、貧乏ゆすりではなく、健康ゆすりと名称を変えて指導するようにしています。しかし、外来で健康ゆすりはこのようにやるんですよ、と見せて同じ動作をやらせてみると、ぎこちない動作になりできない方がほとんどです。そういった方には自動で健康ゆすりができる健康ゆすりストレッチマシーンというのがアマゾンで購入できます。お値段は少々高いですが、高額なサプリメントを定期購入するよりははるかに効果は高いと思います。実際に手術を回避したいという患者さんで、健康ゆすりを2年間継続したら股関節の軟骨が再生して痛みが軽減したという症例を数例経験しています。変形性股関節症の患者さんには一度は試してみてもよいかもしれません。

Q 股関節鏡視下手術について教えてください

股関節鏡視下手術ですが、股関節周囲の皮膚に約6mm程度の穴を2か所から3か所つくり、1つの穴からは先端がレンズになっているカメラを入れて、他の穴からは手術器具を入れてテレビモニターで観察しながら病変部を直接治療していきます。関節の中をきれいに掃除をして、傷んでいる組織を修復するといったイメージです。よい適応は、大腿骨寛骨臼インピンジメントによる股関節唇損傷です。傷んだ股関節唇を修復し、大腿骨と寛骨臼が衝突しないように骨をけずったりします。とても小さな傷で低侵襲で治療できる反面、操作がかぎられてしまうのが欠点です。

Q 骨切り術について教えてください

主に50歳以下の若年者に行うことが多く、骨盤側の骨を切る手術と大腿骨の骨を切る手術があります。骨盤側の骨を切る手術では、まだ軟骨のすり減りの少ない状態で、寛骨臼が浅くなっている寛骨臼形成不全に適応となります。骨盤側の骨を切って浅くなって大腿骨頭への被りが悪かった部分に寛骨臼を移動させて被りを良くする手術です。うまくいけば長期にわたり、自分の骨で症状をよくして軟骨のすり減りを予防することができます。大腿骨の骨を切る手術は、主として大腿骨頭の血液の流れが悪くなって大腿骨頭の一部が陥没してしまう特発性大腿骨頭壊死症に適応となることがあります。壊死範囲が狭く、壊死していない部分を体重がかかる部分に移動させる手術です。どちらの手術もリハビリ期間が長くなることが欠点ですが、人工物に取り換えることなく、自分の骨で治療できることが利点です。

Q 人工股関節置換術について教えてください

股関節の寛骨臼側と大腿骨側の両方を人工物に置き換える手術法です。変形性股関節症や、大腿骨頭壊死症で、骨切り術の適応のない方に適応となります。1時間程度で終了する手術で、創も9センチメートル程度で筋肉を傷めないため入院リハビリ期間は10日~2週間程度と早期に復帰できます。出血量も輸血を必要とする例は少なく、最近では耐用年数が30年以上ともいわれており、比較的若い方でも痛みが強ければ人工股関節置換術を選択する例が増えてきました。股関節の手術の中では最も多い手術と思います。最近ではコンピューターで手術計画を行ったり、ナビゲーションと言ってモニターをみながら正確にインプラントを設置できるようになりました。またそのような操作をロボットに手伝ってもらって行うということも行えるようになってきています。こういった機械は高額であり、まだ少数の病院でしか行えていません。

最後に

股関節が悪くなってしまうと日常生活が困難になりますが、早期に診断して治療開始することで、再び豊かな人生を取り戻すことができます。少しでも股関節に異常がありそうだと気づいたら、専門医を受診することを強くおすすめします。

この記事に関するお問い合わせ先
整形外科

住所:静岡県藤枝市駿河台4丁目1番11号
電話番号:054-646-1111(代表) ファクス:054-646-1122
お問い合わせはこちらから

更新日:2024年04月01日