進行期肺がんの内科治療

執筆者 呼吸器内科 科部長 松浦 駿(まつうら しゅん)
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進行期肺がんは、かつては抗がん剤の治療効果をあげようとすると強い副作用が伴うことがあり、長期的な治療が困難であることも少なくありませんでした。近年は様々な新薬の開発や、遺伝子検査技術の進歩など医療の発展によって、それまでよりも安全な治療が提供できるようになってきています。

肺がんと診断された際に、御家族や知り合いの方がいろいろ心配されて、インターネットなどで調べた情報に振り回されてしまう患者さんもいます。

本稿では、進行期肺がんの症状、診断、病期、治療について簡単に説明していきますので、肺がんについて知りたい方におかれましては是非、参考にしていただきたいと思います。

なお、日本肺癌学会の「患者さんのための肺がんガイドブック」(外部リンク)もQ&A形式で大変わかりやすく、参考になるのでこちらも読んでみると良いでしょう。

進行期肺がんの症状

進行期の肺がんの症状には、一般的な呼吸器疾患にみられる咳、痰、血痰、胸の痛み、動いたときの息苦しさなどがあります。しかしながら、症状がほとんどなくても進行期の肺がんであることもあります。

呼吸器の症状とは別に、転移による症状があります。たとえば、頭痛、手足が動かしづらい、肩や背中の痛み、声がかすれる、顔がむくむなどは、肺がんの転移による症状であることもあります。

肺がんの診断

肺がんが疑われて受診される患者さんにはまず、診断方法を検討します。胸部CTにて腫瘍のサイズや部位(中枢か末梢か)を判断し、リンパ節腫大や胸水の有無などを評価します。

気管支鏡、胸腔鏡、CTガイド下生検

  1. 確定診断のために行うことが多いのは、気管支鏡です。100%の診断率ではありませんが、入院期間も短く、検査によるリスクも低いためです。最近はエコーを使用して腫瘍やリンパ節の有無を確認して生検するので、診断率が上昇し、合併症がさらに低下しています。
  2. 胸水が貯留していれば、局所麻酔下胸腔鏡を検討します。比較的安全かつ診断率が高いです。
  3. 腫瘍が末梢にある場合は、気管支鏡での診断率が低下しますのでCTガイド下生検を検討します。合併症としましては中枢にあると気胸のリスクが高いので、末梢側にある腫瘍で検討します。

非小細胞肺がんと小細胞肺がん

検体が採取されると病理診断科でがんの有無、組織診断が行われます。
非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)と小細胞肺がんに大きく分類されます。

進行期肺がんとは?(病期)

肺がんと診断された後に、治療方針を決める際に病期を評価します(図1)。

1期~2期は早期であるため外科的切除(外科治療)の対象となります。
本稿では内科治療の対象となる3期、4期の進行期肺がんについて説明させていただきます。
基本的に非小細胞肺がんについて話しますが、小細胞肺がんについては1期では手術+化学療法、2期から3期では放射線療法+化学療法、4期では化学療法+免疫チェックポイント阻害剤と認識してください。

肺がんの病期と治療方針を示した図

(図1)
 

進行期肺がんの治療

3期

放射線化学療法で根治を目指しますが、早期肺がんにおける外科的切除に比べると再発率が高いです。
それは、画像ではとらえられないがん細胞が体中に転移している可能性があるからです。
そこで、放射線化学療法のあとに、化学療法を追加していましたが、2021年現在では免疫チェックポイント阻害剤を1年間投与することで再発率を低下させられます。

4期

肺がんの治療薬には「抗がん剤」「分子標的治療薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の3つがあります。

1.抗がん剤

抗がん剤は、従来から用いられている治療薬であり、がん細胞を直接攻撃する薬剤です。副作用には、骨髄抑制や消化器症状などがあります。

2.分子標的治療薬

分子標的治療薬は、遺伝子変異や融合遺伝子を有する肺がんに対して用いられます。がん細胞にドライバー遺伝子変異がある場合、ドライバー変異の部分を阻害することで、がん細胞の増殖を効率的に抑えることができます。

がんが進行する際には、栄養や酸素が必須であり、がん自体が新たな血管を次々と作りながら栄養の確保を行っています。この働きを「血管新生」といいますが、この働きを抑えることによって、がんを兵糧攻めにし、進行を抑えられると考えられます。

3.免疫チェックポイント阻害薬

もともとがん細胞には、リンパ球などの免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みがありますが、免疫チェックポイント阻害薬はその仕組みを解除する治療薬です。

4.抗がん剤+免疫チェックポイント阻害剤

抗がん剤は年々進化して、副作用が減って効果もみられますが、抗がん剤だけでは30%くらいの効果しかみられず、かなりの頻度で再発します。現在は免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、効果もみられ、再発率が低下し、長期生存も見込まれます。

しかし、定期的に免疫チェックポイント阻害剤を投与しなければならないこと、免疫チェックポイント阻害剤による特殊な副作用があることも知っておかなければならないのが事実です。

補完代替療法

よく患者さんからサプリメントや健康療法について聞かれることがあります。現時点では保険診療で処方できる薬剤は副作用に対して一部の漢方薬だけです。

がん治療を行ううえで治療効果を高め、副作用を少しでも減らすためには、栄養状態を高めておくことと日常生活を問題なくできる筋力を保つことだと考えています。当院では、志太地区における進行期の肺がん患者さんを多く治療しています。2014年から2020年の進行期肺がんに対して抗がん剤、免疫チェックポイント阻害剤、抗がん剤+免疫チェックポイント阻害剤併用された患者さんの栄養状態と体格指数(BMI)における予後を調べましたが、栄養状態と体格指数が良い人は治療反応性や予後がいいという結果でした(図2)。

がんの治療を効果的かつ安全に行うためには、栄養状態や日常生活を問題なく過ごせる体型は必要な要素であると考えられます。

治療反応性や予後を表したグラフ

(図2)


参考文献

  1. 日本肺癌学会「患者さんのための肺がんガイドブック」
  2. Matsuura S, et al. Nutrition and Cancer 2021 Aug 25;1-8.

 

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更新日:2023年03月24日