進歩し続ける胃がんの治療 -手術と化学療法を中心に

執筆者 外科 科長 島村 隆浩(しまむら たかひろ)


昨今の医療の進歩によって、胃がん治療は以前に比べてずいぶん良くなりましたので、今回はその進歩の一部をご紹介いたします。

胃がんの手術治療について

1881年に世界ではじめて胃がんの手術が行われてから、国内外を問わずさまざまに改良されながら現在も胃がん手術治療は進歩を続けています。

国内での胃がんは、ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がんとの関連が報告されて除菌治療が広まって以降は減少傾向にありますが、いまだに日本で最も多いがんのひとつです。

その全国の胃がんの治療データを解析して作られた胃がんの治療指針である「胃癌治療ガイドライン」のおかげで、今では国内ではどこでもほぼ同じ治療が受けられるようになりました。

それによると、胃がんの手術治療では、胃の3分の2以上と胃の周りのリンパ節を含んだ脂肪を切除する手術を定型手術といい、日本で最も多く行われている標準的な手術です。

この定型手術も、以前はおなかをみぞおちからおへそまで大きく開けた開腹手術が中心でしたが、最近では医療技術の進歩に伴い、できるだけ小さな傷(創傷)で手術をすることができるようになりました。この技術が近年、急速に広がりつつある腹腔鏡下手術です。(図参照)

腹腔鏡下手術のイラスト図

出典:胃がん治療ガイドラインの解説・日本胃癌学会編[金原出版株式会社]


腹腔鏡下手術とは1~2センチメートルの皮膚を切開して、そこからポートといわれる筒をおなかの中に入れて二酸化炭素でおなかを膨らましてから、その筒を通して手術する医師の眼となる腹腔鏡といわれる内視鏡のような機械を挿入し、さらに手術する医師の手となる鉗子という小さなマジックハンドのような器具を挿入して手術をします。このような機器を使うことにより、以前のように大きくおなかを開けなくても小さな傷で以前と同じ手術ができるようになりました。また、出血量も痛みも少ないので、早く、楽に回復できるようになりました。当院でも、腹腔鏡下手術を2011年に導入してから症例を重ねて、2021年末現在「胃癌治療ガイドライン」で推奨されているすべての早期胃がんに適応しています。

さらには、他のがんですでに導入されている腹腔鏡下手術を器械に手伝ってもらうロボット支援下手術(da Vinciサージカルシステム®=ダビンチ)も全国的に徐々に広まっており、いずれ当院でも胃がん手術治療に対応できる日も近いと思います。

ダヴィンチ

胃がんの化学療法について

もうひとつ、以前より大きく変わったことがあります。胃がん化学療法、つまり抗がん剤治療です。以前は、抗がん剤治療といえば「副作用に耐えながらやる治療」という負のイメージが大きかったと思います。

しかし、全国での大規模な臨床試験などの抗がん剤の研究が進むにつれて、データに基づいた、「副作用を減らしながら胃がんに対してはより効果を発揮する」抗がん剤治療ができるようになってきました。

また、2011年よりがん細胞の持つ特異的な性質を標的とした「分子標的薬」が胃がんにも保険適応になりました。この治療法により、正常細胞にあまりダメージを与えずにがん細胞のみを治療することができるようになりました。

さらに2017年からは、本庶佑先生がノーベル医学生理学賞を受賞した免疫チェックポイント阻害因子を利用した「免疫チェックポイント阻害剤」が胃がんにも保険適応されました。この治療法は、患者さんの免疫つまり体質自体を変えることによりがんを体から追い出すという画期的な治療です。

このように、胃がん化学療法は驚くほど速いスピードで進歩しています。手術治療ができなかった胃がん(切除不能進行がん)、転移再発した胃がん(再発胃がん)でも、生存期間は以前より随分と長くなっているだけでなくさらに改善する可能性を秘めています。

加えて、最初は手術ができないほど進行した胃がんでも化学療法でがんを小さくすることで手術をする場合(コンバージョン手術)もありますので、あきらめずに前向きに治療に臨むことをお勧めします。

胃がんの手術後の生活について

胃がんの患者さんの心配ごとのひとつに、手術後の食生活があります。「手術のあとは好きなものが食べられなくなってしまうの?」「切りとった胃はまたのびてくるの?」等、手術の前にはいろいろな質問を受けます。残念ながら取った胃は元には戻りませんが、少しだけ食事の仕方を工夫してもらえば、好きなものはちゃんと食べられます。

もともと、胃は「食べたものを一時ためて消化してから、少しずつ腸に送り込む」という機能を果しています。ところが、胃を切除してしまった患者さんはこの機能がなくなるので、小腸などを使用して代用することもあります。しかし、基本的には1回の食事量を減らすことで「一時ためて消化する」機能を代用し、ゆっくり食べることで「少しずつ腸に送り込む」機能を代用します。ですから、胃がんの手術後の患者さんには、「1回の食事量をいつもの半分にして、30分以上かけて食事をしてください」とお願いしています。ただし、これだけでは1日の食事量が足りないので、1日3回の食事を5回から6回にすることをお勧めしています。これらのことを入院中も外来通院中も含めて栄養指導や食事リハビリなど様々な面から支援しています。このように、好きなようには食べられませんが、少し工夫するだけで好きなものは何でも食べられますので安心してください。

さらに最近では、手術の後も「好きなように食べたい」という患者さんが増えてきました。そこで、胃がんの治療としては大きく胃を切除したほうが良いのですが、胃の機能を温存するには少しでも胃を残したほうがいいので、両方のバランスを考えた、「胃がんはしっかり切除しながら、胃の機能も温存する手術」(機能温存手術)を、当院でも早期胃がんを対象に取り入れています。

最後に

いずれにしても、患者さん一人一人の年齢も体力もご希望も違いますので、当院では、これらに十分に配慮しながらさまざまな職種とさまざまな治療法を組み合わせて病院一丸(ONE TEAM)となって胃がん治療に取り組んでいます。ぜひお気軽にご相談してください。
 

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更新日:2023年03月24日