肝臓・胆管胆のう・膵臓のがん

執筆者 外科 科長 前間 篤(まえま あつし)

肝臓がん

肝臓がんは日本人に多いがんです。肝臓がんの発生はB型肝炎・C型肝炎ウイルスと大きな関係があります。B型肝炎・C型肝炎ウイルスにかかった方の一部には、長い年月をかけて慢性肝炎→肝硬変→肝臓がんの発生という経過をたどる方がいます。B型肝炎・C型肝炎ウイルスとも血液や体液を介して体の中に入るので、ウイルス検査体制が整っていなかった1990年代前半までに輸血を受けたことがある方に多く見られます。

一方、最近は輸血以外にも昭和時代に行われた集団予防接種での注射針の使い回し等によりB型肝炎・C型肝炎にかかる人がいることもわかってきました。肝炎ウイルスにかかっていても無症状のことがあるので、自分で気が付かないうちに慢性肝炎・肝硬変になっている人もいます。健康診断等で肝臓の数値に異常が出たら早めに医療機関を受診して検査を受けるようにしましょう。

現在はB型肝炎・C型肝炎とも良い薬が開発されていて治療可能な病気となっています。また、以前は肝臓がんにかかる方の90%以上がB型・C型肝炎患者でしたが、最近はB型・C型肝炎のいずれにもかかっていない方にも肝臓がんが増えてきています。

大酒家の方に見られるアルコール性肝炎、またお酒をほとんど飲まなくてもアルコール性肝炎に似た脂肪肝を呈する非アルコール性脂肪性肝炎等が肝臓がん発生の母地になると考えられています。非アルコール性脂肪性肝炎は食生活の欧米化や肥満との関連が指摘されています。

いずれにしても、肝臓がんは進行しなければ自覚症状は出ないことが多いので、B型肝炎・C型肝炎あるいは非アルコール性脂肪性肝炎と言われたら症状がなくとも定期的に医療機関を受診することをお勧めします。

肝臓がんの根治療法は大きくわけて3つあります。手術・ラジオ波治療・肝動脈塞栓療法です。手術は肝臓がんを外科的に切除する治療、ラジオ波は肝臓がんに特殊な針を刺し、針の先端から発生する高周波による熱によってがんを壊死させる治療、肝動脈塞栓療法はがんに栄養を送る肝臓の血管に直接抗がん剤を投与・さらにその栄養血管を閉塞させることによりがんの壊死・縮小を図る治療です。どの治療法を選択するのが良いかは患者さんの肝機能・がんの大きさ・個数によって変わります。「肝(がん)診療ガイドライン」という全国一律の治療推奨基準に基づいて決まります。手術・ラジオ波治療のどちらを選択しても良い、という場合もあります。担当医と治療法について良く相談しましょう。

この十年ほどの間に肝臓がん治療に使える抗がん剤が飛躍的に増えました。抗がん剤治療は原則として上記3つの治療の適応とならない進行した肝臓がんの方に対する治療になります。肝臓がんを根治させることというよりも肝臓がんの発育を抑えることに主眼を置いた治療になります。これらの治療法の他に、肝機能が著しく低下しているためにいずれの上記治療も行えない患者さんに対し「肝移植」が適応となることもありますが、肝移植が受けられる肝臓がん患者さんは現状ではかなり限られます。

胆管がん・胆のうがん

胆管は肝臓と十二指腸をつなぐ直径数ミリの管状の臓器で、肝臓で作られた胆汁の流路になっています。胆のうは胆汁をためる袋状の臓器で、十二指腸に流れる胆汁を調節しています。

胆管がんができ胆管を閉塞するようになると胆汁中に含まれる色素が血液中に逸脱し黄疸(おうだん)になります。皮膚や目が黄色くなります。また、胆汁がうっ滞すること(胆汁中成分が蓄積した場合)によって胆管炎になることもあり、その場合は腹痛や発熱を生じます。

胆管がんの最も有効な治療法は手術になります。ただし、がんの部分の胆管だけを切除するだけでは不十分で、かなり大がかりな手術(膵頭十二指腸切除術など)が必要になる場合がほとんどです。胆のうがんは胆石との関連が指摘されています。胆のうがんになる方の多くが胆石症を合併しています。胆石があるだけで症状のない方(無症状胆石)より胆石発作を繰り返すような方(有症状胆石)に胆のうがんが発生する可能性が多いと言われています。症状のある胆石で医師から胆のう摘出術を勧められた場合は胆嚢がんを予防するためにも手術を前向きに検討したほうが良いでしょう。

胆のうがんの治療も基本は手術になります。進行した胆のうがんは治すことがなかなか難しい場合も多いですが、早期胆のうがんは手術により完治が期待できます。ただし、早期胆のうがんは良性の胆のうポリープ(コレステロールポリープ等)と区別がつきにくいこともあります。胃がんや大腸がんと異なり胆のうがんはカメラで直接見たり組織を調べたりして診断することができないことが区別に苦慮する原因です。大きさが10ミリを超えるような胆のうポリープは胆のうがんの可能性が否定できないので胆のう摘出術を行うことが望ましいです。

膵臓がん

膵臓は消化酵素を作り血糖を調節するホルモンを分泌する臓器です。膵臓は横に細長い臓器で頭部・体部・尾部の3つに便宜上命名されます。頭部に膵臓がんができた場合は胆管を圧迫して胆管がんと同様に黄疸症状を呈することもありますが、体部・尾部にできた膵臓がんは進行するまで症状を引き起こさないことがほとんどです。膵臓がんは早期発見が困難ながんのひとつであり、進行がんで発見されると手術等の治療が困難なこともあります。

膵臓がんの主な治療には手術と抗がん剤がありますが。最も効果的な治療法は手術と化学療法(抗がん剤)を組み合わせた治療になります。手術療法は、頭部にできた膵臓がんに対しては膵頭十二指腸切除術、体部・尾部にできた膵臓がんに対しては膵体尾部切除術を行います。いずれも難易度が高い手術です。病院間での治療成績にもっとも差が出やすい手術のひとつですので医師から手術を勧められた場合、その病院・医師の手術成績を必ず聞くようにしましょう。

手術と抗がん剤治療を組み合わせる場合、手術を先に行い手術後に体調が回復してから抗がん剤を投与するといった治療が一般的でしたが、近年では抗がん剤治療を先に行ってから手術を行うことも多くなってきました。手術治療の対象とならない膵臓がんに対しては抗がん剤治療が基本になります。膵臓がんに対する抗がん剤の種類も近年増加しています。どの抗がん剤治療を選択するかは、患者さん個々の年齢・全身状態等を考慮しつつ、肝臓がんと同じく「膵癌診療ガイドライン」に基づいて決めていくことになります。
 

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更新日:2023年03月24日