高血圧がよく分かる話

執筆者 循環器内科 医長 星野 克臣(ほしの かつおみ)

高血圧とは?

血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁に与える圧力のことで、心臓が縮んだり広がったりすることで発生します。血圧の値は、心臓から押し出される血液量(心拍出量)と、血管の収縮の程度やしなやかさ(血管抵抗)によって決まります。

下図をご覧ください。心臓が収縮して血管に最も強い圧力がかかっている時の血圧を収縮期血圧(最高血圧、上の血圧)と呼び、大動脈もふくらみ血液がたまります。心臓が拡張して全身から返ってくる血液を受け入れている時の血圧を拡張期血圧(最低血圧、下の血圧)と呼び、ふくらんでいた大動脈が元に戻り、その間もゆっくりと血液が先に送られます。
 

収縮期血圧と拡張期血圧

収縮期血圧(最高血圧)と拡張期血圧(最低血圧)


病院や健診で測った血圧が収縮期140mmHg以上または拡張期90mmHg以上の場合、ご家庭で測定した血圧が収縮期135mmHg以上または拡張期85mmHg以上の場合、高血圧と診断します。自覚症状がなくても、そのままにしておくと動脈硬化が進行して脳卒中や心臓病、腎臓病など重大な病気になる危険性が高まります。高血圧は我が国で患者数がもっとも多い病気で、現在約4300万人の患者さんがいると推定されています。そのなかで適切に血圧コントロールされているのは、わずか1200万人程度と考えられています。残り約3100万人のなかには、治療しても目標の血圧に達していない人(約1250万人)だけでなく、自分が高血圧であるか知らない人(約1400万人)、知っていながらも治療なされていない人(約450万人)もかなり含まれています。

高血圧の原因は?

高血圧は、原因をひとつに定めることのできない本態性(ほんたいせい)高血圧と、原因が明らかな二次性高血圧に分けられます。日本人の高血圧の約8〜9割が本態性高血圧で、遺伝性(いでんせい)素因(そいん)(体質)や食塩の過剰摂取、肥満など様々な要因が組み合わさって起こります。中年以降にみられ、食生活を中心とした生活習慣の修正が予防及び治療に大切です。これに対し二次性高血圧は、原因となる病気があり、それにより高血圧に至る場合です。例えば、腎臓の働きが低下している場合や、血圧を調整するホルモンのバランスが崩れている場合、腎臓に血液を送る腎動脈が狭窄している場合、睡眠時無呼吸症候群、お薬の副作用などがあります。原因を明らかにして取り除くことができれば、血圧の正常化が期待できます。二次性高血圧を示唆(しさ)するものとしては、若くして発症した高血圧、重症の高血圧、お薬を使っても改善しない高血圧、それまで良好だった血圧の管理が難しくなった場合などです。簡単な血液検査やエコー検査などで分かる場合もあるので、まずは疑って調べることが大事になります。

高血圧の症状は?

高血圧は自覚症状がありません。しかし、放置すると命に関わる病気(脳卒中や心臓病、腎臓病など)を起こすことから「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれる怖い病気です。わが国で年間10万人以上の方が、高血圧が原因で亡くなっています。早朝の頭痛、夜の頻尿や呼吸困難、めまいやふらつき、足の冷えなどの症状を認めるときは、高血圧によって臓器が傷みはじめていることが疑われます。症状がないうちに、早めに血圧管理をすることが重要です。

高血圧の診断は?

まずは血圧の測定が必要です。血圧には、1.病院・クリニックなどで測る診察室血圧、2.自宅で測る家庭血圧、3.特殊な機械をつけて15分〜1時間ごとに1日かけて血圧を測る24時間血圧の3つがあります。一般には診察室血圧と家庭血圧が用いられます。日本高血圧学会が高血圧治療ガイドラインを公表しており、約5年毎に改定されています。ガイドラインというのは、病気をどのように診断、治療するとよいかということについて、科学的根拠に基づいて説明している文書です。最新の高血圧治療ガイドライン2019では、血圧の値を表のように分類しています。
 

血圧の値による分類

血圧の値による分類


最近の研究で、脳卒中や心筋梗塞の発症を予測する方法として、診察室血圧より家庭血圧の方が優れていることが分かってきており、高血圧の判定では家庭血圧のほうが優先して用いられます。なお、診断する時も治療中においても、家庭血圧は5〜7日間あるいはそれ以上測定して、その平均値で判断します。また、高血圧には分類されない診察室血圧140/90mmHg未満、家庭血圧135/85mmHg未満の中でも、表のように高値血圧、正常高値血圧、正常血圧を分類しています。なぜなら、高血圧でなくとも、高値血圧の人は、正常血圧の人と比べて脳卒中や心臓病の危険性が高いことが近年わかってきたためです。またその危険性は、糖尿病や腎臓病などの合併症や喫煙習慣のある人では更に高くなります。高値血圧も、放置してはいけません。

家庭血圧の測定方法は?

人間の心臓は1日に約10万回拍動を繰り返していますので、同じ数だけ血圧値も存在します。したがって何回か測っても全く同じ値が出ることは少ないです。血圧値の変動に一喜一憂して何度も測る必要はなく、原則朝(起床後1時間以内で排尿後かつ食事・服薬前)と夜(就寝前)の2機会(可能であれば1機会2回測定し、その平均をとる)測定すれば結構です。いずれも座って1〜2分間の安静を保ってから測るようにしてください。血圧計は、手首にカフを巻くタイプだと値が不正確になりがちなので、上腕(二の腕)に巻くタイプの方が好ましいです。

高血圧の治療は?

事、運動、嗜好品などの生活習慣を修正することで高血圧の予防や改善が期待できます。具体的には減塩、肥満の予防や改善、節酒などに加えて、運動習慣や食事パターンの見直し、禁煙が推奨されます。軽症な高血圧の場合には、生活習慣の修正から治療を始めます。お薬を始めた後でも、これらの生活習慣の修正は有効で、お薬の量を減らすのに役立つ場合があります。血圧を下げるお薬のことを、降圧薬といいます。降圧薬による治療は、原則生活習慣を改善しても血圧が目標までなかなか下がらない場合に行います。ただし、高血圧によって臓器に障害が生じて進行している場合は、速やかに始めることもあります。降圧薬には多くの種類があり、そのなかから患者さんの血圧値や全身状態、その他の病気の有無などによって最適なお薬を決めていきます。いくつかのお薬を組み合わせなければならないこともあります。一度始まったお薬は必ずしもずっと飲まなければいけない訳ではなく、生活習慣の改善や季節変動などで減量・中止することも可能ですし、逆に増量が必要なこともあります。お薬を飲んでいれば大丈夫というわけではないので、家庭血圧をきちんと測って今飲んでいるお薬で大丈夫であることを確認する必要があります。自己判断で薬を減量・中止することは危険ですので、必ず家庭血圧を主治医に報告してよく相談するようにしましょう。

血圧の目標は?

高血圧の治療の目標は、先に紹介した診断のための値とは異なる場合があります。一般的な治療の目標として、75歳未満は家庭血圧で125/75mmHg未満を、75歳以上では135/85mmHg未満を目指します。合併している病気の状態によって、より厳格に下げたほうがよい場合や、逆に慎重に下げたほうがよい場合もあり、みんなが同じではないのです。かかりつけの医師に自分の目標とする血圧を相談しながら、目標に向けて頑張りましょう。

まず初めにやってほしいこと

まずは自分の血圧を知ることから始めましょう。特に医療機関を受診する機会のない方は、血圧は自分で測定しないとわかりません。初めは公共施設や医療機関、薬局、スポーツジムなど、どこでも構いませんので、血圧を測定してみてください。健康診断でも測定する機会があります。血圧の値が気になる場合は、血圧計を購入し、最も信頼できるとされる家庭血圧を一週間前後記録して、お近くのクリニックや当院で相談してください。当院では、高血圧によって臓器がどれくらい影響を受けているか、また、高血圧の治療を行ううえで重要な合併症がないか、そして二次性高血圧の原因となる病気がないかなどについて詳しく調べることができ、またそれに基づきよりよい治療方針を検討できます。一度調べてみたい場合、管理に難渋している場合など、かかりつけの医師とも相談して、是非当院への受診をご検討ください。
 

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更新日:2023年03月24日