虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)

執筆者 循環器内科 科長 阿部 信(あべ まこと)

はじめに

心臓がポンプとして働くためには心臓の筋肉(心筋)に栄養や酸素などが必要です。そのための血液を運ぶ血管を「(かん)動脈(どうみゃく)」といい、大動脈から直接分岐しています。冠動脈には心臓の表面を流れる左冠動脈と右冠動脈があります。その冠動脈が細くなったり(狭窄(きょうさく))、詰まってしまったり(閉塞(へいそく))して、心筋に必要な血液が充分行き渡らなくなった状態を虚血性心疾患といいます。冠動脈疾患とは同意語であり、狭窄があっても症状が一時的で心筋細胞が死んでしまう(壊死(えし))ことがない状態を「狭心症」といいます。また、冠動脈が閉塞を起こし、心筋細胞が壊死しまった状態を「心筋梗塞」といいます。特に心筋梗塞は予測できず突然発症することが多く、急性期の死亡率は30~40%とも言われます。突然、生命を奪われる疾患の筆頭が急性心筋梗塞です。

虚血性心疾患の原因

ほとんどの場合、動脈硬化が原因です。ですから、若い方には例外を除いて虚血性心疾患はありません。動脈硬化は全身に起こりますので、その他にも脳や腎臓さらに四肢にも同様の変化を生じていると考えるのが一般的です。

冠動脈に動脈硬化を起こさせる要因を「(かん)危険(きけん)因子(いんし)=リスクファクター」といいます。主な冠危険因子として1.高血圧症、2.糖尿病、3.高脂血症(最近では脂質異常症といいます)、4.喫煙、5.男性・虚血性心疾患の家族歴などが挙げられます。上記の中で5.はいかんとも避けられませんが、1~4は適切な医療を受けることや本人の努力で対処できるところです。

狭心症の症状

一般的には冠動脈の狭窄に起因しますので、階段を上がったり、体を動かしたりした時(労作時)に症状が発作的に出現します。症状の特徴としては胸の痛み・圧迫感が胸の中央部に自覚することが多いようですが、息切れや胸やけとして自覚する場合もあります。さらに、時には左肩・腕や首や顎さらにみぞおち辺りの痛み(これらの症状を放散痛といいます)として感ずる場合もあります。体を休めると症状が治まりますが、その時間は長くても15分以内です。さらに進行すると軽労作や安静にしている時にも症状が出現することもあり、この場合は危険な狭心症のこともあります(不安定狭心症といい急性心筋梗塞に移行しやすいと言われ入院加療が必要となります)。

時に労作時には全く症状がなく、深夜や早朝に胸部症状が出現する狭心症もあります。このような場合には冠動脈が痙攣(けいれん)を起こして内腔が狭窄・閉塞する場合があります。これを「冠攣(かんれん)縮性(しゅくせい)狭心症(きょうしんしょう)」といいます。上記のような自覚症状があってもほとんどの場合、外来受診時には症状がありませんので、医師はきめ細かい病歴や症状の様子を伺うことが狭心症診断の第一歩となります。そのような診断技術を「問診」といい、狭心症に限らず、すべての疾患の診断のためには大変重要な匠の技術です。

心筋梗塞の症状

狭心症と似た症状ですが、冷汗や(おう)()(吐き気)・嘔吐を伴う全身症状を来たすことが多く、15分以上症状が持続します。また、狭心症の特効薬であるニトログリセリンの舌下錠は効果がなく、時間経過も含めて狭心症とは区別できます。

最近は上記の不安定狭心症や急性心筋梗塞などの緊急対応しなければ生命が危ぶまれる虚血性心疾患を「急性(きゅうせい)(かん)症候群(しょうこうぐん)」と総称することもあります。

ここで注意しなければならないことがあります。糖尿病患者さんやご高齢の方は時に無症状で経過してしまい、気付いたら心不全や突然死の形をとってしまうことも最近は多く経験します。

診断

前述のように詳細な「問診」が診断の第一歩となります。
以下が診断のための検査手段です。

(1)心電図

特に狭心症の場合、外来受診時には症状がないことが多く、心電図が正常であることが狭心症の否定にはなりません。上述の急性冠症候群でなければ、場合によっては患者さんに心電図を装着してもらい、医師監視下でベルトコンベアーの上を歩いたり走ったりして評価することもあります(トレッドミル運動負荷試験)。また、夜間の症状がある場合には外来で24時間心電図(ホルター心電図)を装着して変化を見ることもあります。

(2)心筋シンチグラム

放射性同位元素(ラジオアイソトープ)を用いて心臓の断層写真を撮影します。心臓の筋肉へ向かう血流の低下を検出することができます。(機能的異常の有無を検出することが可能です。)

1回の検査で自己負担額の割合に応じて数万円の負担のある高額な検査ですが、外来でできる検査で狭心症の診断もしくは除外するために重要な診断検査です。当日に結果を出すことも可能です。

(3)心エコー検査

体表面から超音波を当てて心臓の壁運動・弁の機能などをリアルタイムで観察でき、患者さんの心臓の状態を初診で把握するために不可欠な検査になっています。心筋梗塞では心臓の壁が薄かったり、動かなくなっています。

(4)血液検査

血液検査から糖尿病や脂質異常などの冠危険因子や貧血の有無、さらに腎機能の程度が評価できます。心臓に関しては心不全の有無や、発症数時間以内の急性心筋梗塞の際に心筋の壊死の有無を早期に診断できるようにもなっています。

(5)冠動脈CT検査

不整脈がなく、脈拍がある程度安定している患者さんであれば、冠動脈そのものを、造影剤(血管を見るための液体)を使用してCTで描出することが可能です。冠動脈の狭窄や病変の性状を観察できます。

(6)心臓カテーテル検査

リスクを伴う検査ですが、確実な方法です。現在はこの検査なくしては虚血性心疾患の評価は困難でもあり、引き続きカテーテルの治療に移行することも可能です。一般的に手首((とう)(こつ)動脈)や足のつけ根の動脈(大腿動脈)、もしくは肘の動脈(上腕動脈)から直径3mm程度の細い管(カテーテル)を冠動脈まで入れて、造影剤を注入して狭窄や閉塞の有無・程度を調べます。近年は手首の血管(橈骨動脈)からのカテーテル挿入が第一選択となっており、2021年末現在、当院では橈骨動脈からのカテーテル治療を行った症例の割合は70%を占めています。

治療

薬物治療

これは基本の治療です。高血圧・糖尿病・脂質異常症などの冠危険因子のコントロールは虚血性心疾患の予防かつ治療でもあります。

カテーテル治療

1977年に世界で初めてカテーテルを用いた治療がなされました。その後、医療機器の進歩により現在ではかなり普及しており、最近ではカテーテルインターベンション治療(PCI)と総称されています。カテーテルを介して細い針金(ガイドワイヤ)を狭窄あるいは閉塞した冠動脈の部位に通過させ、そこに沿わせて風船を膨らませるバルーン治療(図1)や、コバルトやプラチナなどを金網状に加工してチューブになったもの(ステント)を血管壁に留置するなどの手技(図2)をいいます。その結果、冠動脈の血流を改善することができます。一刻も早い血流の改善が必要な急性心筋梗塞に対しては非常に有用な治療であることは、現在、疑いの余地はありません。当院でも急性心筋梗塞に対して腎機能は保たれており生活が自立できている方に対してはPCIを第一選択としています。しかし、治療した冠動脈の部位に対し血栓形成を抑える内服薬(抗血小板剤)が必須であることや、拡張した部位が狭窄してしまう(再狭窄)などの経過をたどることもあることは留意すべきと考えています。以前はステント治療後の再狭窄は留置後1年以内で20%程度確認しましたが、現在はステント内にあらかじめ再狭窄予防の薬剤を塗布している薬剤溶出ステントが広く使用されるようになり、再狭窄率は数%以下にまで抑えられるようになりました。

当院ではさらに冠動脈小血管やステント内の再狭窄に対しては再狭窄予防の薬剤を塗布した薬剤溶出バルーンの使用や、高度石灰化という重度の動脈硬化病変に対してはダイヤモンドの刃で病変を切削するローターブレーター治療が行われ、冠動脈病変の性状に合わせ、さらなる治療の選択肢が広がっています。

バルーン治療

図1 風船(バルーン)治療(インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス トーアエイヨーより)
 

ステント治療

図2 ステント治療(インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス トーアエイヨーより)

冠動脈バイパス術

基本的には左右の冠動脈に強度の狭窄が認められている場合(3枝病変といいます)と左冠動脈の根元(左主幹部といいます)が狭窄している場合が主な適応となります。詳細は他章をご参照ください。

当院には心臓血管外科がいるため24時間対応可能です。緊急時には連携をとり緊急バイパス手術を行うことも可能です。

二次予防

一度心臓病になった患者さんの再発を予防することを二次予防といいます。

前述した血圧、糖尿病、高脂血症などの冠危険因子をコントロールすることが基本です。

二次予防の第一歩はライフスタイルの改善です。特に喫煙は絶対に禁止です。心臓病と診断された時点ですぐに禁煙することを強くお勧めします。

また、心臓病には毎日の運動を行う運動療法が極めて重要であり、運動による血圧の安定や血糖値の改善、高脂血症の改善など二次予防に極めて有効であると言われています。現在の運動療法は筋肉の改善よりも内臓脂肪の減少を目指したエネルギー消費に重点が置かれており、20分以上のエアロバイク運動が理想的です。当院では、心不全を合併している患者さんに心臓リハビリテーション室での専門的な指導、リハビリ療法を行っています。
 

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更新日:2023年03月24日