心不全について

執筆者 循環器内科 科長 中村 淳(なかむら じゅん)

心不全の特徴

心不全は『心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気』と定義されています。つまり心臓が弱っていることが原因で何らかの症状が出れば心不全となります。

近年、治療の進歩や高齢化に伴い、心不全で入院される患者さんの平均年齢は右肩上がりに上昇しています(図1)。

心不全入院患者さんの平均年齢の推移

図1 心不全入院患者さんの平均年齢の推移


当院において、心不全で入院された患者さんの平均年齢は2020年に初めて80歳を越えました。今後、さらに心不全患者さんの高齢化が進行することが予想されています。

また心不全は、多くの場合点滴や内服治療により症状は改善するものの、何らかのきっかけで再び発症するリスクの高い疾患です。心不全を何度も再発し入退院を繰り返すと、徐々に身体機能が低下し、自立した生活を送ることが段々と困難になります。最終的には薬物などの治療が効きにくくなり、終末期を迎えることになります(図2)。このように心不全は『繰り返し再発する』という特徴をもった病気です。

心不全の経過

図2 心不全の経過

心不全の原因と症状

心不全は心臓が弱ったことが原因で起きる病気です。それでは心臓を弱らせてしまう疾患とは何でしょうか。心機能を低下させる疾患として、心筋梗塞や弁膜症、不整脈、心筋症といった心臓そのものに障害が起きてしまうものや、高血圧や糖尿病などの全身疾患が由来となるものなど多岐にわたります(図3)。

また、感染症や貧血、腎機能障害なども心不全を悪化させる要因となります。
 

心不全の原因となる主な疾患

図3 心不全の原因となる主な疾患


心不全を発症すると、疲れやすい(()疲労感(ひろうかん))・息切れ・足のむくみ・体重増加・食欲不振といった症状が出現します。しかしこれらの症状は、他の疾患でも認められるため、症状だけで判断することが難しい場合もあります。ただ心不全が重症である場合、『起坐(きざ)呼吸(こきゅう)』という比較的心不全に特徴的な症状が出現します。これは「横(臥位(がい))になっているよりも座っているほうが呼吸をするのが楽」という症状です。この症状が出現した場合は、一刻も早く病院を受診してください。ほとんどのケースで入院による治療が必要となります。

心不全は再発と改善を繰り返すため、一度退院しても再入院する確率の高い疾患です。新たな治療薬の開発や手術の進歩・技術革新により以前は治療困難だった疾患も治療ができるようになっています。しかし、残念ながら心不全の再入院率は全く改善していないのが現状です(図4)。再入院率を減少させることが今後の心不全診療の大きな課題と言えます。

心不全再入院率の推移

図4 心不全再入院率の推移


心不全再発のきっかけとなる原因も様々です。新たな心筋梗塞や不整脈など、心臓の機能自体が悪化することも原因として挙げられますが、食事管理の不徹底や薬の自己中断、無理な運動といった自己管理が十分にできていないことが実は再発の原因の半数以上にのぼります(図5)。詳細は後述いたしますが、心不全の再発予防には自己管理が極めて重要となります。

心不全再増悪の原因

図5 心不全再増悪の原因

心不全の診断

心不全は主に以下の2つを中心に診断を行い治療方針が決定されます。

  • 心不全の有無とその重症度の評価
    緊急性を評価し、重症度が高い場合には救命処置が優先されます。
  • 原因疾患の検索
    心不全に至る原因疾患は様々あるため基礎疾患を同定し治療を行うことが重要です。

まず身体所見の評価を行います。バイタルサインと呼ばれる意識の有無・血圧・脈拍・体温・呼吸をチェックします。上述のようにバイタルサインが不安定な場合には救命のための治療・処置が優先して行われます。また、心音や肺音の聴診、むくみの判定、血中酸素飽和度のチェックや可能であれば体重測定を行い、その後以下のような一般的な検査を行います。

  1. 心電図
    不整脈の有無や波形などから心筋梗塞の有無などが評価されます。
  2. 胸部X線写真
    心臓陰影の大きさやうっ血の程度、胸水の有無を評価します。
  3. 心エコー検査
    心不全の評価において非常に重要な検査方法です。心臓の壁運動・弁の状態や動きをリアルタイムで観察でき、心機能の評価を行います。胸水の有無やうっ血の程度を判定することも可能です。また、心筋梗塞や弁膜症など原因疾患の検索を行います。
  4. 血液検査
    心臓の機能が低下して過剰な負荷がかかると、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)と呼ばれるホルモンが分泌されます。これは心不全の重症度や治療効果の判定に使われます。BNP以外にも糖尿病や脂質異常などの動脈硬化促進因子の有無、肝臓や腎臓などの内臓機能、貧血や感染の有無等を数値化して評価することができます。
  5. その他
    上記が比較的簡便にできる検査となりますが、その結果によりさらに精密検査が必要となる場合があります。ホルター心電図や運動負荷検査、CT検査、心臓MRI、心筋シンチグラフィー、心臓カテーテル検査などを必要に応じて行い、診断と治療に役立てています。

心不全の治療

一般的な心不全治療は薬物療法、食事療法、運動療法が大きな柱となります。薬物治療は主に症状を改善する利尿薬と、心不全による死亡や再入院を減少させるための心保護薬に分類されます。利尿薬の作用で、身体に貯留した余分な水分を尿として排出し、呼吸困難やむくみを改善させます。心保護薬は作用機序に応じて分類され(アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬、β遮断薬、抗アルドステロン薬等) 、一人一人の病態に応じて医師の判断で調整が行われています。近年、これまでよりもさらに予後改善効果が高いとされる新たな機序の薬(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬、SGLT2阻害薬など)が開発、市販され、心不全の再発予防、再入院抑制に大きく寄与することがわかってきています。

食事療法は心不全再発を防ぐために最も重要な治療の一つです。塩分・水分の過剰摂取は心不全再発の最も大きな原因とされております。塩分は1日6gを目標に制限を行います。現代の日本において、一般的な健康成人の塩分摂取量は男性で約11g/日、女性で約9g/日と言われており、6g/日というのはかなり厳しく管理しないと達成できません。具体的には外食や総菜はなるべく控える、調味料は減塩のものを使用する、麺類は汁を残す、等の対策が必要となります。最初は味がしないと思われるかもしれませんが、慣れと工夫で美味しく感じることができるようになると思います。水分については季節や気温により必要量が変動するため、大まかに摂取量を設定することがほとんどです(夏の汗を大量にかく時期と真冬日では必要となる水分量が大きく異なります)。重要なのは毎日体重を計測しその変動をチェックすることです。体重が急激に増加してきたときは心不全増悪の可能性が疑われますので、症状が出現する前に当院やかかりつけ医を受診してください。

適切な運動を行うことで心不全再発予防効果と日常生活動作(ADL)の維持・改善が期待できます。運動により直接心機能が改善するわけではありませんが、筋力強化と体力の向上により心臓の負荷が減少します。高齢者の場合、日常生活動作(ADL)が低いと心不全再発のリスクが高くなるというデータがあります。毎日の運動により日常生活動作(ADL)を維持することが結果的に心不全増悪を防ぐことになります。ただ、過度の運動は心臓に対する過剰な負荷となり、逆に心不全を増悪させてしまうことがあります。そこで検査ができる方を対象に心肺運動負荷試験を行い、適切な運動量を測定し日々の運動に役立ててもらっています。

その他、心不全の「非薬物治療」として心臓再同期療法(CRT)や植込み型補助人工心臓による治療、心移植なども行われますが、これらは医師が慎重に適応を判断したうえで行います。

心不全再発を防ぐための当院の取り組み

当院では心不全再発、再入院を抑制するために2020年、「心不全地域連携チーム」を発足しました。心臓・循環器を専門とする医師、心不全療養指導士の資格を持った看護師や薬剤師、心臓リハビリテーション指導士の資格を持った理学療法士、管理栄養士、社会福祉士らが中心となり結成されました。心不全に関する知識の普及や評価の方法、診療所や介護施設との情報共有を目的とした心不全管理ノート、毎日の状態を自己管理し把握するための心不全管理記録用紙を作成し運用しております(図6)。

心不全管理記録用紙

図6 心不全管理記録用紙


心不全の兆候がないか毎日自分自身で確認することにより、重症化する前に気づくことができます。これは患者さん自身がかかりつけの診療所や病院を受診する目安となるだけでなく、かかりつけの先生方が総合病院へ紹介、受診をすすめる判断基準としても使用していただけます。ちなみに当院ホームページ内、循環器内科にアクセスすると、心不全管理ノートならびに心不全管理記録用紙をダウンロードすることが可能です。ぜひ使用してみてください。

前述の通り、運動療法は心不全再発予防に極めて有効な治療です。しかし運動療法には1点だけ難しいことがあります。それは継続することです。運動療法は長期間継続して初めて有効な治療となりますが、続けるためには強い精神力が必要です。運動が必要なことはわかっているけど自宅ではなかなか続かない、どの程度の運動をしていいのかわからない、という患者さんはとても多いです。当院では心臓リハビリテーション室を開設しており、外来で運動療法を継続することが可能です。専門的知識を持った理学療法士の指導の下、患者さん一人ひとりにあった最適な運動を安全に行っております。安心できる環境で楽しく運動を続けたい、という方はぜひご利用を検討してみてください。

当院の心臓リハビリテーション室

当院の心臓リハビリテーション室(1階超音波検査室奥)

まとめ

  • 心不全は症状の再発と改善を繰り返す、再入院率の非常に高い病気です
     
  • 再発を予防するためには薬物療法・食事療法・運動療法の継続が必要です
     
  • 再入院を防ぐためには日常生活の中で悪い兆候を早めに察知することが重要です
     

高齢の心不全患者さんの増加に伴い自分の状態を把握することがなかなか難しく、周囲のサポートが必要となるケースが増えています。多職種が連携し地域全体で適切な診療体制を構築することが、心不全の再発予防、再入院抑制に大きな役割を果たします。藤枝市立総合病院では心不全地域連携チームを通じて、市内の診療所や介護施設、支援センター等と密に連携をとり、患者さんが心不全を再発することなく自立した生活を安心しておくることができるような診療体制を行政と協力し築いていきます(図7)。

藤枝心不全地域連携チームの目標

図7 藤枝心不全地域連携チームの目標

この記事に関するお問い合わせ先
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住所:静岡県藤枝市駿河台4丁目1番11号
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更新日:2023年03月24日