中村利夫院長、ラジオ番組に出演 大腸がんの最新情報をわかりやすく紹介

中村利夫院長

中村利夫院長が2021年春、SBSラジオ番組「サンデークリニック」に出演しました。2回続きの番組内ではアナウンサーの質問に答え、「大腸がん」について興味深い最新の情報をわかりやすく紹介しています。好評だった放送内容のダイジェスト版をお伝えします。

大腸がんの検診と検査

日本国内ではおよそ15万人が大腸がんと診断されています。がんの中で最も多く、男性に多い傾向があり高齢になるほど多くなります。食生活の欧米化が引き合いに出されるのですが、大腸がんによる毎年の死亡者数はアメリカとほぼ同じ5万人です。人口の割合からいえば、日本のほうが2倍から3倍も大腸がんで死ぬ率が高いことになります。

50年以上前はアメリカのほうが多かったのです。アメリカ政府はがん撲滅のためにがん検診の有効性を調査で明らかにし、国内の大腸がん検診をすべて無料で受けられるようにして検診を広めてきました。アメリカでは現在、70%の人が大腸がん検診を受けるようになり、大腸がんによる死亡率を減らしています。一方、日本の大腸がん検診受診率はいまだに50%にも届かず、大腸がんによる死亡率を増やし続けています。検診はがんで死なないための最も有効な手段であることを忘れないでほしいのです。

新型コロナの流行で検診や人間ドックの受診控えが起きました。わが国では毎年およそ100万人ががんと診断され、主ながんのうち約2割が検診や人間ドックで発見されています。がん検診の受診者が減ったことで、数年後にがんが進行して病院に来る患者さんが増えるのではないかと今から恐れています。

早期のがんでは症状が出ることはまずなく、検診をやらない限りがんを早期に見つけることはできません。病院では新型コロナへの十分な感染対策をとっていますから、検診を自粛しないでください。検診は不要不急なことではありません。

「がん検診」というと身構えてしまうという声を聞くこともありますが、これまでお話した大腸がん検診はとても簡単な検査です。便の中に肉眼では確認できない血液が混じっていないかを調べます。それで結果がプラスと出たら大腸内視鏡検査を受けるきっかけと考えてください。大腸がんかどうかは大腸内視鏡検査で診断できます。内視鏡の進歩で検査時間も10分〜30分ぐらいです。腫瘍が見つかると、内視鏡で組織の一部を採取し病理検査でがんの確定診断をします。

大腸がんの手術をする場合、事前に超音波検査、CT、MRI、PET※[1]などの検査があります。がんの転移や進み具合をステージで表しますが、このステージを決めるための検査です。医師はステージ基づいてどんな治療が適しているかを患者さんに提示します。

患者さんにとって大切なことは、その説明をよく聞くこと、わからないことがあったら積極的に質問することです。遠慮してはいけません。ほかの医師の意見を聞きたいと思ったらセカンドオピニオンを申し出るのもいいと思います。


※[1] PET=ペット(positron emission tomography、陽電子断層撮影法)薬剤を体内に注射し薬剤ががん細胞に集まるところを写す検査。特別な機械を使って撮影しがんの有無や位置を詳しく調べることができます

大腸がんのステージ分類と治療

大腸がんの治療法には主に内視鏡治療、手術、医薬品で治療する薬物療法、放射線治療があります。手術には開腹手術、腹腔鏡手術、腹腔鏡下ロボット支援手術などがあります。腹腔鏡下ロボット支援手術は2018年に直腸がんに対する治療について保険診療が認められました。

医師は大腸がんを治療するにあたり、がんを取りきれるかどうかで治療法を選択します。薬物療法や放射線治療だけでは、がんの進行を抑えたり小さくしたりすることはできても、がんを完全に消し去ってしまうことが難しいので、内視鏡治療か手術かを判断します。それはがんの大きさや進展具合、周りのリンパ節に転移しているかどうかで決めます。いわゆるステージ分類です。

内視鏡治療は大腸の内側からがんを切除する方法です。適応となる大腸がんは、がんがリンパ節に転移している可能性がほとんどなく、一括でとれる大きさと部位にあり、ステージ1の中でもがんが大腸の壁の比較的浅いところにとどまっている場合です。内視鏡で切除できれば、入院の場合でも数日で済み、痛みもほとんどありません。

手術は内視鏡で切除できないステージ2の状態で選択します。ステージ2は大腸がんが大腸の壁の奥深くまで入り込んだ状態です。さらに腸管のリンパ節に転移している状態をステージ3といいます。いずれの場合も腸管切除の際に周辺のリンパ節を一緒に取ります。手術前のCTやMRIでリンパ節へ転移している所見がなくても、がんのある腸管に属するリンパ節には小さな転移があるかもしれないので手術の際に取る必要があります。腸管とともに切除することで大きな問題は起こりません。

手術には開腹手術と腹腔鏡下手術がありますが、治療成績に大きな違いはありません。腹腔鏡下手術は二酸化炭素でおなかを膨らませ、腹腔鏡で観察しながら手術します。開腹手術に比べお腹の傷が小さいため、手術後の痛みが少なく回復が早いという長所があります。最近は腹腔鏡下手術が主流になってきているようですが、担当医とよく相談してください。

大腸がんの薬物療法は治療目的により2種類があります。そのひとつ「補助化学療法」はステージ3の大腸がんを手術したあと再発を防ぐことを目的とした治療法です。治療期間は3ヵ月から6ヵ月です。もうひとつは「切除不能進行・再発大腸がんに対する薬物療法」です。手術による切除ができず、別の臓器や器官に転移する遠隔転移を伴ったステージ4の大腸がんや再発大腸がんに対し、進行を遅らせたり症状を緩和させたりする治療法です。

最近ではがんの個々の遺伝子異常を明らかにし、最適な抗がん剤治療をする分子標的薬※[2]の重要性が指摘されています。

放射線治療は主に手術前に薬物療法と一緒に行うことが多いです。放射線治療と薬物療法を組み合わせ、手術による完治を目指すために行います。最近は放射線をピンポイントで照射することで放射線の悪影響を最小限にして治療効果を上げる工夫もされるなど進歩しています。

内視鏡治療や手術をしたあと、転移の可能性がなければ抗がん剤も放射線治療も必要ありません。早期発見とステージ分類が治療を選択する上で最も重要なカギとなります。そのためにもぜひ定期的に大腸がん検診を受けてください。新型コロナウイルスが蔓延していてもがん検診は決して不要不急ではないのです。

(完)


※[2] 分子標的薬は、がん細胞が持つ特有の分子だけを標的とし、正常な細胞を傷つけずにがん細胞の増殖機能を攻撃・抑制することができる。

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更新日:2021年04月20日