顔面けいれん・三叉神経痛

顔面けいれん、三叉神経痛

加齢とともに脳血管は徐々に屈曲・蛇行するようになります。屈曲・蛇行した血管が脳神経を圧迫することで症状が生じる疾患を、「神経血管圧迫症候群」と呼びます。代表的な神経血管圧迫症候群が、「顔面けいれん」と「三叉神経痛」です。

厳密にはこれらの疾患は脳血管障害のカテゴリーには含まれませんが、脳血管が原因の疾患であり、脳血管を扱う手術であるため技術的に重複する部分が多く、当院でも積極的に手術を行っております。

顔面けいれんは、「顔面神経」と呼ばれる顔の筋肉を動かす神経の根元を血管が圧迫することで、顔の片側がピクピクとけいれんする病気です。片側の下まぶたのピクツキからはじまり、数ヶ月〜数年単位で徐々に同側のまぶた全体、頬、口もとなどにピクツキが広がります。緊張したり眼を強く閉じるとピクツキが誘発されますが、症状のひどい方の場合、ほとんど1日中けいれんが続きます。これにより人前に出るのが億劫になったり、ふさぎ込んでしまうことがあります。

三叉神経痛は、「三叉神経」と呼ばれる顔の知覚(触覚)をつかさどる神経の根元を血管が圧迫することで、顔や顎の片側に激痛が走る病気です。この痛みは非常に特徴的な数秒間の鋭い痛みで、電撃痛と表現されます。痛みが治まるまでの10数秒の間は、話すことも顔を動かすこともできなくなるほどです。ものを噛んだり、歯を磨いたり、顔を洗ったりする刺激で誘発されます。顔よりも歯や歯茎に痛みを強く感じる方もおり、しばしば患者さんは歯科を受診します。歯の治療を繰り返しても全く症状が良くならない場合には、この病気を疑う必要があります。症状のひどい方の場合、痛みを恐れて話すことも食べることもできなくなり、体重が落ち、ノイローゼのようになってしまいます。そのためまれに精神疾患と診断されていることもあり、ときには何年もかかってようやく正しい診断にたどりつく患者さんもおられます。

治療

顔面神経や三叉神経を血管が圧迫することによって症状が出現するのが典型的ですが、ときに脳腫瘍や脳動脈瘤など別の病気によって神経が圧迫されていることもあり、その場合には原疾患の治療を行う必要があります。

ここでは、血管の圧迫によって症状が出現する典型的な顔面けいれん、三叉神経痛の治療について説明します。

いずれの疾患も、放置したからといって命に関わる疾患ではありません。しかし、著しく生活に支障をきたした結果、生きていることが億劫になり、自ら命を絶ちたいという気持ちになった患者さんもおられます。そういう意味では、命を脅かす疾患ではないと言い切るのは間違いかもしれません。

顔面けいれんの治療には、ボトックス注射と手術があります。
ボトックス注射とは、けいれんしている顔面の筋肉に「ボツリヌストキシン」を有効成分とする注射を打つことで、筋肉の収縮を抑え、けいれんを止める方法です。注射ですので、入院の必要はありません。非常に効果的な治療ですが、注射の量が多すぎても少なすぎても満足した結果にならないことがあります。3〜4ヶ月程度で注射の効果が切れて再び顔面けいれんが生じますので、効果を維持するためには3〜4ヶ月ごとに繰り返し注射をする必要があります。

手術は「微小血管減圧術」です。全身麻酔をかけ、耳の後ろを切開し、顕微鏡を用いて手術を行います。圧迫している血管は約1〜1.5mmととても細く、周囲には脳や神経、血管など大事な組織が密集しています。これらの大切な組織にはなるべく触れず、圧迫している血管の位置をそっと数ミリ動かします。これにより、顔面神経が誤作動を起こさなくなります。

圧迫されている顔面神経
圧迫していた血管を移動

顔面けいれんの手術
上が圧迫している血管を移動する前の状態。下が移動した後の状態。移動した血管は元の位置に戻らないよう、糊付けを行います。


ほとんどの方(90-95%)は、1回の手術でけいれんが完全に止まりますので、大変効果の高い治療と言えます。しかし脳の手術は怖いものですし、ときに手術後に耳の聞こえが悪くなったり、めまいがしたり、一時的に声がかすれてしまったりすることもありえます。効果とリスクを天秤にかけて、手術を行うか、ボトックス注射を続けるか、ほとんどの患者さんは大変迷ったうえで決断しています。私たちの施設では手術を担当しており、ボトックス治療は近隣の連携しているクリニックに依頼しています。悩んだ末に手術を希望された患者さんの期待に応えられるよう、万全の準備を整えた上で手術に臨んでいます。

三叉神経の治療には、痛み止めの服用と手術があります。
痛み止めの服用により、効果に個人差はあるものの、痛みは減弱します。痛み止めの服用で痛みが消失している方には、手術は必要ありません。痛み止めを服用しても痛みから完全に解放されない方や、痛み止めの副作用のため服用を続けられない方に対して、手術をお勧めしています。

手術は「微小血管減圧術」です。上述した顔面けいれんの手術と一見似たような場所を切開(耳の後ろ)しますが、開頭(手術のために骨を外す)する場所が15mmほど異なります。たったそれだけで、見えている景色が大きく異なります。顕微鏡を用いて、重要な組織を損傷しないよう最大限に注意を払いながら、三叉神経を圧迫している血管の位置をそっと数ミリ動かし、除圧します。これにより、三叉神経痛の発作は通常ピタリと消失します。

三叉神経痛の手術を行なっても効果が乏しい方、あるいは一度良くなっても数年後に再発してしまう方が1割程度おります。そのような患者さんには、第3の治療法であるガンマナイフ治療(放射線治療)や神経ブロックを勧めることがあります。

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更新日:2023年05月24日